資産運用を始める際は、事前にポートフォリオを作っておくべきだとされています。ポートフォリオを簡単にいうと、「どんな投資商品を」「どのくらい購入するか」を決めるものです。その内容は人それぞれになりますので、作成するのは簡単ではありません。それでもポートフォリオは時間を割いて考える価値があるものです。ポートフォリオ作成のメリットと効果をご紹介します。
ポートフォリオとはどんなもの?
ポートフォリオと聞いて、デザイナーや写真家などの作品集のことを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし金融の世界でポートフォリオといえば、購入する金融商品の組み合わせのことを指します。大まかな資産構成ではなく運用商品の具体的な比率を指し、その内容は債券、株式、投資信託、外貨預金、金(きん)……など多岐にわたります。なお、大まかな資産構成はアセットアロケーションと呼ばれ、ポートフォリオとは区別されます。
ポートフォリオのメリットと効果を知ろう
具体的な金融商品のポートフォリオを作ることで、次のようなメリットを得ることができると考えられています。
目標利回りを設定することで、漫然と運用するよりも運用効率が高まるとされています。ポートフォリオがしっかりしていると、目標利回りに届かないときに、資産の組み換えや保有資産比率の見直しが恣意的に行いやすいからです。
ポートフォリオがなくとも分散投資は可能ですが、ポートフォリオを取り入れることで、よりニーズに合った分散投資がしやすくなります。関連性がない金融商品を組み入れることで、ある方向性の金融商品が値下がりしても資産全体における影響を限定的にすることもできます。また、現金も含め総資産から金融商品の組み合わせを考えることで、投資と現金割合の調整もしやすいメリットがあります。
金融商品にはそれぞれリスクがありますが、リスク含有度は商品によりさまざまです。ポートフォリオを作ることで、どのくらいのリスクの商品をどの程度購入するか事前に検討でき、許容リスクに合わせて資産運用を行うことが可能です。
これらのメリットは、平時だけでなく、金融危機の際にも有効です。経済・政治事情で市場が荒れたときに、場当たり的に対処するのは資産を減らすもとになります。例えばリーマンショックの時には、金融商品の値が下がり、慌てて全部の金融資産を償還・売却してしまった個人投資家も少なくなかったようです。しかしポートフォリオがあれば、長期的な視点で、売却すべきもの(値が戻らない)・保有しておくもの(いずれ値が戻る)の選定ができるはずです。
運用商品のタイプはどんなものがある?
ポートフォリオを作成するためには、金融商品の特性を理解することが必須です。金融商品のタイプは「種類」「収益性(リターン)」「リスク」などで分けられます。どのタイプがどんな金融商品なのかご紹介します。
・ ローリスク・ローリターン
「国内債券」「先進国債券」「金」「国内株式」「国内REIT」など
・ ミドルリスク・ミドルリターン
「国内株式」「国内REIT」「先進国債券」「先進国株式」「先進国REIT」など
・ ハイリスク・ハイリターン
「新興国債券」「新興国株式」など
期待できるリターンはどの程度?
資産ごとの期待収益率がどの程度なのか、参考までにGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の例をご紹介します。
・ 国内債券 ▲0.4%
・ 国内株式 3.2%
・ 外国債券 0.9%
・ 外国株式 3.6%
上記はおおむね原則通り、リスクが低い金融資産はリターンが低め、リスクが高めの金融資産はリターンも高めとなっています。実際は個別の保有銘柄や本人の嗜好にも左右されるかと思いますが、参考にするといいでしょう。
どんなポートフォリオがあるの? 事例を紹介
タイプ別に、ポートフォリオの組み合わせ事例も見ていきたいと思います。
事例1 国内重視・慎重派
国内債券 50%
国内株式 25%
国内REIT 25%
かなり慎重なタイプで、為替リスクを取りたくないため投資先を国内資産に限定
事例2 通常の慎重派
国内債券 25%
国外債券 25%
分散投資型投資信託 50%
自ら選ぶのは債券に絞り、個別に売買が入り込むものは専門家(投資信託)に任せる
事例3 バランス派
国内債券 30%
国内株式 10%
国内REIT 10%
外国債券 40%
外国株式 10%
国内資産と外国資産の割合が半々。為替リスクのある外国資産については、債券の比率を高くすることでリスクコントロール
事例4 積極運用派
国内債券 20%
国内株式 10%
国内REIT 30%
外国株式 30%
外国REIT 10%
海外資産は4割と抑えていますが、投資先を海外債券ではなく、外国株式・外国REITにすることである程度のリターンを狙っている
ポートフォリオ成功のカギは属性ごとに違う
自分にとってより良いポートフォリオを作るコツは、期待リターンやリスク許容度を明確にすることだけではありません。年齢や経験値に応じた、自分の属性を把握し、ポートフォリオに反映させることも大切です。年齢が進むとリスクは取りにくくなりますし、投資経験や投資額によっても資産運用の内容は変わってきます。年代ごとの、一般的なポートフォリオ特性とはどんなものなのでしょう。
20代が組むポートフォリオの特徴
20代は積極的に資産へ投資を行い、投資経験を積みたいです。仮に少々失敗しても、若ければ取り戻せるはずですので、ある程度のリスクをとることができます。しかし無理にリスク商品に投資する必要はなく、自分のリスク許容度の範囲で複数の投資を行えるといいです。例えば為替リスクが怖い場合でも、国内の「債券」「株」「REIT」への投資を行うなどすれば、経験を積むことができます。
30〜40代が組むポートフォリオの特徴
この世代は一般的に結婚や出産など、さまざまなライフイベントが発生します。イベントごとにお金がかかりますので、資産運用に回す資金がないケースも散見します。今後の資産運用にお金が回らないだけでなく、マイホーム購入や子供の進学のために以前から保有している金融商品を現金化する例も少なくありません。出費の多くなりがちなこの世帯は、少額でも投資を継続していくことが大切でしょう。
50代が組むポートフォリオの特徴
50代はリタイヤに向けて運用を行います。年齢的にリスクは取りづらいですが、ローリスクの預貯金や国内債券だけでは目標額に届かないこともあるでしょう。その場合は、少額でもリスク商品を購入するか、投資に回す金額を増やして対応するといいでしょう。50代後半になったら、金融資産の価値が高いタイミングで現金化、もしくは換金性の高い商品への組み換えを視野に入れていきましょう。
ポートフォリオで資産運用の出口戦略を
ファンドマネージャーや企業と違い個人投資家には決算がありません。とはいえ、定期的に収支を出し、収益率を確認することは必要でしょう。保有している金融商品の利益を確定させる、運用結果と状況の変化に応じたポートフォリオの組み直しを意識していきます。
仮に資産が増えていても「増えているから大丈夫」では問題が潜んでいる恐れがあります。それは、リスクの高い金融商品が多く、一時的に資産が増えているだけで、今後下落の可能性を多くはらんでいるかもしれないからです。現時点の収益率とともに、将来の見通しもシビアに行いましょう。
ポートフォリオも定期的に見直しをしよう
5年、10年単位で目標まで資産を増やせればベストです。そのなかで、一時的には下落を許容してもいいでしょう。例えば長期保有を予定する投資信託と、償還期限5年の債券を組み合わせるなどすれば、投資信託でマイナスが出ても債券の利益は保証されるので、総資産が大きく下落することはありません。
毎日収支とにらめっこする必要はありませんが、毎月一回は収支確認、年に1回はポートフォリオの見直しを行いたいです。その際は、長期的な視野で、かつ最終目標を念頭に置いて行いましょう。
ポートフォリオを導入すれば運用効率の向上が期待できる
ポートフォリオがなくても資産運用を行うことはできますが、作成したほうが計画的、かつ効率的に運用できるはずです。問題が発生したときの投資商品の入れ替えや、利益確定のタイミングなどもより的確に行えるでしょう。初心者の場合、「ポートフォリオを作成するほどの経験者ではない」と考えてしまう人もいますが、経験のない初心者ほど、ポートフォリオが資産運用の助けになるはずです。せっかく投資をするならば、ポートフォリオ作成を意識して行いましょう。