オフショア投資は海外のうち特に、税率が低い地域で直接投資をすることとされています。富裕層が行う投資手法だと思われがちですが、そんなことはありません。ただ、内容や仕組みが分かりにくく、一般投資家の中では、やってみようと思う人がなかなかいないようです。この機会に、とっつきにくい印象のオフショア投資について学んでみましょう。
オフショア投資って何?
オフショア投資に厳密な規定はありませんが、一般的には租税回避地への直接投資を行うこととされています。手法でいえば国際分散投資の1つ。ただし、「直接投資」なので、国内で購入する外貨建て保険やグローバル型投資信託はオフショア投資ではありません。
現地(海外)におもむいて投資口座を開く方法もありますが、日本にいながらでも仲介者を通して海外への口座を開き、直接投資することは可能です。ここでいう直接投資とは現地(海外)での口座開設となります。海外の「IFA(ファンドの売買をする独立系ファイナンシャルアドバイザー)」と契約することになりますので、渡航の有無は大きな問題ではありません。
気になる初期費用ですが、オフショア投資では海外積立投資とも呼ばれる積立型の投資が人気となっており、初期から多額の資金が要るわけではありません。
オフショア投資は租税回避地(以下:タックスヘイブン)での投資を指します。タックスヘイブンとは税率が極めて低い、もしくはゼロの地域や国のことです。また、口座に際する秘匿性の高さや、税制への規制が緩いことも、タックスヘイブンの特徴です。
タックスヘイブンの主な特徴
1. 税率がゼロか、極めて低い(主に法人税がゼロから20%以下の国や地域)
2. 法人の設立が容易で、業務の内実を要しない(ペーパーカンパニーを容認)
3. 金融規制が緩い
4. 秘匿性が高い
※ 条件すべてを備えているとは限りません。一番重要な要件は「1」の税率の低さです。
実は、秘匿性の高さに関しては近年薄れがちです。要件を1つか2つしか満たせていないような国でもタックスヘイブンとされることはあります。もしくは、タックスヘイブンとまではいかなくとも税率メリットがある国や地域が「準タックスヘイブン」「準オフショア地」などと呼ばれることもあります。
税率を低くしてしまうとタックスヘイブンの収益がなくなるような気がしますが、会社の設立・ビジネスマンの流入による消費が見込めるため、現地にも充分にメリットがあるのです。一方、タックスヘイブンに籍を置く投資会社にも、税負担が少ないので高いリターンが期待できるというメリットがあります。
タックスヘイブンの仕組みは?
タックスヘイブンとして有名なのはパナマやケイマン諸島ですが、その他にも世界各地に存在しています。日本に近いのは香港でしょう。政策変更による税制優遇でタックスヘイブンの仲間入りをしたり、逆に脱タックスヘイブンとなったりすることもあります。
タックスヘイブンは違法ではない
タックスヘイブンといえば、パナマ文書やパラダイス文書の印象が強い人も多いでしょう。ニュースで取り上げられたため「違法行為なのでは?」と不安に思う人もいるかもしれません。
パナマ文書やパラダイス文書に掲載されていたのは納税を推進する立場の政治家や、法人税を払ってしかるべきと思われる大企業などでした。こういった高額所得者に対して「租税逃れ」と厳しい目が向けられただけであり、タックスヘイブンは「脱税(違法)」ではありません。
高額所得者が納税の義務を免れ、私たち一般のものが納税に追われているとしたら、不公平に感じますよね。そのためかなりの批判を浴びました。
オフショア投資のメリット
わざわざ国外で投資をするメリットは、何といってもオフショア地と呼ばれるタックスヘイブン地の税率の低さです。税率が低い、もしくはゼロであれば投資会社は節税できる分、効率よく運用できます。そもそも日本では現在低金利であるため利率が低いです。海外の金融商品は日本より利率がよいものが多く、ハイリターンを狙えるとされています。日本でもグローバル型投資信託はありますが、国内の金融商品と比較して手数料水準が低い傾向にあるのも魅力ですね。
人気の海外積立投資はさらにメリットが多い
さらに、主流である「海外積立投資」の優れている点を見てみましょう。
1:リスクを抑えることができる
国内外への投資により資産分散が可能です。資産を分散させることでリスク回避できます。
2:長期的投資が可能
海外積立投資は積立型であるだけでなく、長期的な投資を行う商品がメインであるため、自然と長期投資となります。長期投資は短期投資に比べ収益の上げ下げが小さく、安定して利益を上げやすいとされています。また、国内の投資信託は分配金受取型も多いですが、海外積立投資は分配金再投資型が主流のようです。分配金を再投資に回すことで、さらなる収益増が期待できますね。
この記事では「オフショア投資=海外積立投資」とします。
長期的な資産形成ができる
「積立」ですので、多額の初期資金がなくとも始められることもメリットですね。平均取得単価を抑えることができるとされるドルコスト法の効果も得られます。
また、原則として長期間の投資になるため、老後資金や相続などといった長期的な資産形成ができます。日本では、若いうちにそこまで見据えた資産作りを具体的に考えるのは難しいです。一方で海外積立投資はリタイア後の生活を考える契機としても適しています。
オフショア投資のデメリット
オフショア投資にはデメリットもあります。大きなデメリットとなるのが、カントリーリスクです。投資先のオフショア地に政情不安や経済不安があれば影響を受けてしまいます。オフショア地からの投資地域・国に政情不安や経済不安があっても同じです。国内投資であれば、不安要素を早期に察知して投資の解約なり積立の一時休止なりできるでしょう。しかし、海外の場合「情報を察知すること」「現地の言語(主に英語)で解約や積立の一時休止を求めること」のどちらも簡単ではありません。同じように、為替リスクもあります。やはりこちらも、海外で投資を行う分、為替リスクが見えにくくなっているので注意が必要です。
手続き面の難易度も高い
オフショア投資の始め方は後述しますが、契約先は自ら決めなければなりません。契約先の紹介を受けるにせよ、最終判断をするために自ら情報収集をして「自らの投資方針と合っているか」、「利益をもたらしてくれそうかどうか」……などを見極めなければなりません。
また、契約すれば手続きが終わるわけではありません。積立金の増額・減額、投資内容への質問などのやりとりはその都度発生します。
「長期投資の海外積立投資を始めたけれど、投資内容が希望に沿わないので途中解約したい」といった場合、損をしやすくなるのも知っておきましょう。長期的な投資を前提としているので、初めのうちは利益がでない可能性があるほか、そもそも早期の解約ができなかったり、手数料がかかったりします。
情報収集の壁に注意
金融庁の規制によって、日本では海外積立投資の金融商品は販売できません。個人が自ら情報を集めようとする分には問題ありませんが、販売する側は規制を受けます。そのため海外積立投資セミナーなどでも具体的な説明はしにくい現状があることも知っておきましょう。
仲介会社の見極めが重要
日本の金融商品ではないので、内容を理解するのが難しいでしょう。英語が得意な人でも、金融商品にかかわる用語は特殊なもの。信頼できる仲介会社から商品や契約の説明を受けたいところです。
仲介会社に支払う「仲介手数料」も、内容に対して妥当かどうか吟味しなければなりません。長期的な投資をする以上、仲介者とも長い付き合いになるはずなので、料金はもちろん、相性やサービス面で妥協はしてはいけません。しっかりした仲介会社がすぐに見つかるとは限らず、場合によっては、仲介会社が見つからないことでオフショア投資を断念することになってしまうかもしれません。
オフショア投資を始めるなら
オフショア投資を始めるなら、どのように始めればよいのでしょうか。改めて、オフショア投資の仕組みをご紹介します。なかには、日本でオフショア投資を行っている会社(プロバイダー)を探そうと考えている人もいるかもしれませんが、金融庁による規制によって、日本でそのような商品を販売することはできません。そのため海外(タックスヘイブン地)に籍を置いている会社と直接契約しなければなりません。
直接プロバイダーと契約することはできないため、代理店であるIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を介して金融商品を購入することになります。どんな商品・ファンドを選ぶのかを決定するのがIFAであり、どんなIFAを選ぶかでオフショア投資の成果は大きく変わってきます。
関係する会社が複数あるので、一覧でまとめました。
1. プロバイダー 現地で海外積立投資を扱っている会社
2. IFA プロバイダーの代理店
3. 日本におけるIFAの仲介会社(仲介者)
4. 投資家(個人)
上記のように、私たち投資家がプロバイダーに行き着くまでには間に複数の会社(人)を経由することになります。それぞれについて詳しく解説します。
プロバイダー(信託会社) 現地の信託会社
海外積立投資の商品を作っている会社。しかし直接プロバイダーと契約することはできないため、代理店であるIFAと契約します
IFA ファンド選択をし、投資資金を動かす
投資家はIFAと契約をします。契約をすると長い付き合いになるため、しっかりサポートを行ってくれるIFAを選びましょう。IFAによって取り扱うファンドが違うので、商品性についてもよく吟味しなければなりません。私たちのお金を託すことになるのがIFAですので、妥協せずに選びましょう。とはいえ、現地にあるIFAとの契約を1人でおこなうのは難しいため、IFAとの契約も日本にある仲介会社を通すのが一般的です。
仲介会社 日本におけるIFAへの仲介会社(仲介者)
現地へおもむいてIFAと直接契約を結ぶ方法もありますが、費用・知識・語学力が必要です。そのため、多くの人は日本の仲介会社を通してIFAと契約します。複数のIFAとつながりがあり、こちらの好みや希望にそったIFAを紹介してくれる仲介会社が理想です。また、現地法人がある、もしくは現地の在中スタッフがいる仲介業者だと安心です。
「紹介できるIFAが1つだけ」という仲介業者の場合は、そのIFAが信頼に足る機関なのか、よく見極めなければなりません。仲介会社が、数あるIFAの中から最良の1社を選んでいる場合もあると思いますので、紹介できるIFAが1社だからといって悪いと決めつけることはできません。
なお、海外積立投資の「長期」とは、25年程度を指します。もちろん、10年、15年といったもう少し短期の運用も可能ですが、基本的には長い時間をかけた資産形成になります。それだけの期間、毎月数万円を投資していくのですから、誰に仲介してもらい、誰と契約するのかはしっかり考えなければなりません。
国内にいながらの契約も可能
国内にいながら契約できる会社と、渡航して現地で契約する会社の2種類があります。当然お金がかかるのは後者ですが、現地の様子を直接見られることや、観光を兼ねることができる点では、渡航しての契約にもメリットがあります。
ただし、なかには「オフショア投資ツアー」と銘打って渡航料金が非常に高く設定されているケースなどもあるようです。そのような悪質な仲介者はごく一部だとは思いますが、用心しておくことが大切です。
オフショア投資にはリスクも多くあります。その中で収益性が高く、自分に利益をもたらしてくれる海外積立投資を行うには、自らの情報収集・英語力・信頼できる仲介会社の選択などが不可欠のようです。
オフショア投資の利益は課税対象になる
タックスヘイブンで投資を行うオフショア投資について、個人投資家の収益も非課税だと誤解している人がいるようです。オフショア投資でも日本に住む投資家なら、運用益は課税され、日本で申告する必要があります。
本来働いて所得税を納めている人は税申告が必要ですが、日本では会社が代理で税申告をしてくれます。勤め人が確定申告をする場合は、住宅ローン控除や医療費控除を受けるときなど、特別な場合のみとなり、経験がない人も多いでしょう。しっかりした仲介会社なら納税についても相談に乗ってくれるはずです。
近年国外財産に対する国税庁の取り締まりは厳しさを増しています。法改正で課税の取り扱いは変わる可能性があることにも注意しましょう。どうしても申告が難しい場合や、内容に不安がある場合は税理士に頼むことをおすすめします。
国税庁の規制は強まっている
国外財産に対する目が厳しくなっている今、オフショア投資をするなら知っておいてほしい動きがあります。
まず、納税とは別ですが、「国外財産調書」の存在です。実は、国外財産が5,000万円を超える場合は「国外財産調書」の提出義務があります。これは日本に住んでいる人(以下:居住者)が対象となります。
・ 居住者であること
・ 国外財産の額が、12月31日時点で5,000万円を超える
上記の要件に該当するときは、その年の翌年の3月15日までに、所轄税務署長に「国外財産調書」を提出しなければなりません。
富裕層の海外資産への課税には力が入ってきていますので、間違っても「外国での投資だから気づかれないはず」などと考えないようにしたいです。仮に国外財産調書の提出要件のある人が書類を出さず、かつ申告もしないでいると、申告が指摘された場合に通常よりも重い税率が課される可能性があります。逆に国外財産調書の提出があれば、申告漏れが生じてしまったときにも、課税に対し、若干の優遇が受けられます
国外財産課税に向けた国際的な動き
国外財産へ適切な課税をする動きは、日本だけのものではありません。経済協力開発機構(OECD)ではCRS(共通報告基準)の仕組みが整ってきています。これは、各国において、その国に住んでいない者の口座情報を互いに報告・交換するものです。日本もすでにCRSに参加済みですので、加盟各国と自動的に口座情報が交換されています。現在加盟国は100以上となっており、加盟しているタックスヘイブン地も少なくありません。
オフショア投資は事前に仕組みを理解することが大切
オフショア投資は長期的な視野で行い、将来大きなリターンが得られる可能性がある魅力的な運用手法ですが、投資を始めるのは簡単ではありません。仕組みや内容を理解するのはもちろんですが、仲介会社やIFAなどに関しても自ら情報収集していかなければなりません。興味がある人は、実際にオフショア投資をしている人から直接話を聞いたり、セミナーに参加したりして知識を得ることから始めてみましょう。
・ No.7456 国外財産調書の提出義務|国税庁
・ 共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報(「CRSコーナー」)|国税庁
・ 平成29年度及び平成30年度改正 外国子会社合算税制に関するQ&A(情報)|国税庁
・ No.1937 居住者が海外で株式等を売却した場合の課税関係等|国税庁