「知人の退職金制度が、運用の成果によって金額の変わる確定拠出年金になった」「同期が定年後を見据えて資産運用をしているらしい」など周囲の話を聞いて焦った体験はありませんか? おそらく多くの人が、これからは投資を避けては通れないと感じ始めていると思います。しかし、頭ではわかっていても最初の一歩が踏み出せない人も少なくないようです。未経験者が投資を始めるためには、どのように準備していけばいいのでしょうか?
ライフプランを考えると投資の重要性は高い
厚生労働省の「平成30年版高齢社会白書」によると、総人口における65歳以上の人の割合は1970年で7%超、1994年で14%超でしたが、2017年には27.7%にまで上昇しました。今後、高齢社会はさらに深刻さを増すことが予測され、公的年金を取り巻く環境も苦しくなると考えられます。
私たちは公的年金にプラスして自己資金を準備しなければなりません。かといって預貯金の利息は微々たるもの。十分な預貯金があるなら別ですが、そうではない大多数の人は、漫然と預貯金を積み立てていっても資金をほとんど増やすことはできません。
利率の良かった養老保険は今や販売している保険会社がほとんどありませんし、終身保険の解約返済金も大きく利益を出せるものではありません。終身保険は死亡保険の備えと貯蓄性を併せ持った意義のある保険ですが、「増やす」ことを目的とすると物足りない印象は否めません。老後の不安に備えるために自己資金を作ろうと考えるならば、やはり投資が有効でしょう。
投資はリスクコントロール可能
「投資で資産が増えればうれしいけれど、逆に減ることもあるかと思うと踏み出せない」といった意見もあるでしょう。確かに投資には、元本割れリスクがあります。しかしギャンブルではないので、自衛策をとることが可能です。長期運用ならば、利回りは低くてもじっくり増やす「ローリスク・ローリターン」投資を行うことができますし、予測できない下落が発生しても上昇まで待つことができます。
投資の効果はあるのか
投資の効果を考える例として、300万円を2%で運用した場合についてご紹介します。この例で複利運用すると20年後の資産は445.8万円まで増加します。なお、複利運用とは運用利益を再投資に回すことをいいます。
少なくとも私は0.001%の普通預金よりも、2%で複利運用するほうに魅力を感じます!
投資資金がない!先取り投資で投資資金を確保しよう
投資資金がない人も安心してください。最近は100円や1,000円など、ごく少額で投資をスタートさせることができるからです。ただし100円や1,000円を20年運用していても将来大きな額にはなりません。当初は少額の運用となったとしても、資金を毎月積み立てて運用額の増加を目指しましょう。
毎月カツカツで不安な場合は、1,000円でいいので給与から先取りして投資に回していきます。最初に投資額を確保し、残額で生活していけるよう工夫していきましょう。少額投資は大きく損をすることもないので、経験を積むのにも適しています。やりくりと投資に慣れてきたら、積立額を増額していきましょう。
毎月の家計から投資資金をねん出するには
中には、毎月赤字で預貯金を切り崩して生活しているような人もいると思います。そういった人は最初に収支を確認することから始めてください。支出を把握して、無駄な出費が特定できればそこを投資資金に振り替えることができるはずです。支出を把握するのは家計簿をつけるのが一番おすすめです。現在は家計簿にもさまざまなものがありますので、代表的なものをご紹介します。
○ 手書き、手入力
従来型の家計簿。ノートや家計簿アプリに金額と支出項目を記載・入力していきます。手間はかかりますが、備考や特別費、預貯金の取り崩しなどを自由に記録しやすく、自分の家計にあわせて記録できるのが強みです。
○ レシート管理
レシートを活用した家計管理方法です。とっておいたレシートを週末や月末で区切り、大まかに分類して集計するのが一般的です。家族全員がレシートを出せば、家族の支出が楽に把握できます。現金・クレジットカード・プリペイドカードなど、支払い方法がバラバラでもレシートさえあれば支出が管理できます。一方、レシートがない支出は見えにくいのが難点です。
○ 履歴・明細確認
支払い方法をプリペイドカードやクレジットカードに集約し、履歴や明細で支出を確認します。管理のための特別な手間が不要なのは助かります。ただし、支出の累計額が見えにくくお金の流れを体感しにくいため、支出額を意識することが必要です。
○ 使用額の定額化
1週間や10日ごとの期間を設けて使用金額の上限を決め、その中でやりくりをしていきます。上限金額内でやりくりができればいいのですが、お金が不足してしまうと意味がないため、節約が苦にならない人におすすめです。特別費が発生したときに対応しにくいのが注意点です。
様々な家計簿のタイプを紹介しましたが、ひとつの方法に絞る必要はありません。例えば現金はレシートで分類し、クレジットカードの明細も合わせて月末にざっと集計……など、2つ以上の手法を併用する選択肢もあります。向き不向きや買い物の仕方などを考慮し、無理なく続けられるものを探してみましょう。
支出の管理は面倒に感じられるかもしれませんが、毎日何となく使っているお金を意識するだけで出費をカットできることも多いものです。毎月の家計を上手く回すために支出を管理するのは非常に有意義です。日々のやりくりが苦しいときは、節約の前に支出の把握から始めてみましょう。
もしも家計を把握・管理したにもかかわらず無駄が見つからない場合は、「固定費」と「浪費」の見直しをしてみましょう。固定費とは、通信費・会員費・保険等、毎月決まってかかるお金です。必要性や利用頻度の低いものは一度考え直してみてください。
また浪費とは生活において必須ではない支出をいい、一般の世帯では趣味や嗜好品が多いです。浪費も一定額は必要ですが、あまりにお金が貯まらない場合は収入に対して浪費している額が大きすぎるかもしれません。浪費は収入の5%以内が理想とされていますので、多くても10%程度に抑えるようにしましょう。
未経験者向け、投資の始め方
投資資金の見通しが立ったら、いよいよ投資スタートです。どう始めたらいいのかを3ステップでご紹介します。
ステップ1 証券会社を選ぼう
最初に取引をする証券会社を選び、口座を開設します。証券口座の開設に数の制限はありませんが、口座が多いと管理するのも大変です。まずはひとつだけ選んでみましょう。証券会社の比較では、「手数料」「使い勝手」「情報」の3つをチェックするといいでしょう。
取引手数料
取引金額によって手数料が変わる証券会社がほとんどです。例えば、10万円の取引なら数十円程度の手数料がかかるケースが多いですが、中には無料の会社も。逆に、百円超の証券会社もあります。ネット証券は手数料が低く、店舗があり対面営業をしている総合証券のほうが手数料は高い傾向にあります。
使い勝手
押し間違いや入力ミスがあってはいけませんので、取引画面の分かりやすさは重要です。事前に分析ツールやチャート画面を、デモや使い方ページで確認しましょう。スマートフォン、PCなど、自身が取引を行う媒体で確認することを忘れずに。
入金方法もチェックしておきましょう。保有している銀行口座と同系列の証券会社を選ぶと、両口座を連動させることができます。連動できればネット上で普通預金・証券口座間の資金移動が楽にできますし、入金が口座に反映されるのも早いです。ただし安易な現金化や引き出しを防ぐために、あえて連動性のない独立した証券口座を開設するのもありでしょう。
情報力
市場ニュース・個別銘柄の情報は多いほうがいいですが、いくら情報量が多くても内容を理解できなくては意味がありません。分かりやすさを判断するために、無料で読めるニュースを見てみたり、用語集が充実しているか確認したりすることをおすすめします。
最近は初心者向けセミナーや、自分で学べる動画コンテンツも各社充実してきています。投資未経験者なら特に、スキルアップツールには注目したいところです。
人によってニーズは異なるため、自身が優先したい事項の評価が高い証券会社を選ぶことが大切です。投資額が小さい人の場合は投資額における手数料の割合が高くなるので、手数料の安さは重要になります。忙しくて利便性を重視する人なら「スマホ画面の使いやすさ」、「(保有している)銀行口座との連携」など、使い勝手が気になることでしょう。決めかねるときは、3社程度まで候補を絞ったうえで資料請求し、最終判断を下すといいでしょう。
ステップ2 口座を開設する準備をしよう
証券会社が決まったらいよいよ口座開設です。従来は申込書類を自宅に請求、自宅で申込用紙を記入し投函するのが一般的でした。しかし最近はインターネット上で申し込みフォームに記入し、本人確認書類の画像をアップロードする方法が普及しつつあります。
口座開設する際はマイナンバーの提示が必要です。そのため、マイナンバーカード、もしくはマイナンバーの通知カードを用意します。マイナンバーカードは本人確認書類も兼ねますが、通知カードの場合は別途本人確認書類の提出が必要になることが一般的です。本人確認書類は顔写真付きの免許証などが望ましいとされます。
顔写真付きの本人確認書類がない場合は、健康保険証や住民票の写しなど、(顔写真なしの)本人確認書類2種類で申し込みが可能な場合もあります。これは証券会社ごとに異なるので事前の確認が必要です。
【 提示が必要なもの マイナンバー 】
マイナンバーカード、もしくは通知カードを提示
【 一般的な本人確認書類(顔写真付き本人確認書類) 】
マイナンバーカードや運転免許証、住民基本台帳カードなど
ステップ3 開設する口座を決めよう
口座にはいくつかの種類があるため、適した口座を選ぶことが必要です。口座の種類は申し込みの段階で選ばなくてはなりません。結論から言うと、給与所得者で特別に大きな投資をするわけでなければ「特定口座・源泉徴収あり」がおすすめです。
では、特定口座ならびに源泉徴収ありとはどんなものでしょうか。
○ 特定口座
納税申告を簡単に行うことを目的とした制度です。特定口座なら証券会社が年間の取引を計算し、「特定口座年間取引報告書」として受けることができます。「特定口座年間取引報告書」を使用すれば簡単に確定申告を行うことが可能です。
○ (特定口座の)源泉徴収あり
株や投資信託を売った利益は、所得税法上「譲渡益」と呼ばれます。譲渡益には、譲渡所得の20%(+復興特別所得税)が課税されることに。売却のたびに税金を申請するのは私たちの負担が大きいため、多くの人は事前に税金を納税する「源泉徴収」という仕組みを利用します。
「源泉徴収あり」を選択すれば証券会社の方で納税を完了し、税金が引かれた額が売却益(譲渡益)として手元に入ってきます。
○ (特定口座の)源泉徴収なし
「源泉徴収なし」を選択すると譲渡益から税金が源泉徴収されず、確定申告にて納税する義務が生じます。ただし、特定口座年間取引報告書を受けとれば、確定申告の手続き自体は比較的楽にできるはずです。
「特定口座・源泉徴収あり」を選択すれば、原則として確定申告が不要となるためおすすめです。なお、源泉徴収の「あり・なし」は毎年選択が可能ですので、後から変更することも可能です。
口座を開設したら取引画面を開いてみよう
郵送で手続きしたときはもちろん、インターネット上で手続きをした場合にも、口座開設書類が自宅に届きます。書類には「口座番号」・「(取引画面への)ログインIDとパスワード」・「暗証番号」など、取引を行うのに必要な情報が記載されています。実際に取引をする前に画面を開いて操作に慣れておきましょう。
投資の手法にはどんなものがある?
投資にはさまざまな種類がありますが、初めて投資をするなら、自己資金を活用した株式投資や投資信託が一般的です。株式は特定企業の株をその時の株価で購入し、株が値上がりしたら売却益を得ることができます。投資信託はファンドに資金を投資します。集めた資金をファンドマネージャーが運用し運用益を還元してくれる、いわば間接的な投資手法です。
資金が乏しい場合、少額で積立て購入しやすい投資信託のほうが適していると感じるかもしれません。確かに株式投資では一銘柄が百万円以上するものも多く、大きな資金が必要になる場合もありますが、実は10万円未満で購入できるものも少なくありません。通常株式では100株や1,000株などのまとまった単位が売買単位となりますが、単元株数の10分の1で取引できる「ミニ株」もあります。
株式投資には値上がり以外の付加価値も
投資信託には所定の手数料がかかりますが、運用をプロに任せられる利点があります。一方、株式投資では大きく値が上がる可能性がある反面、値下がりリスクも個人で引き受けることになります。
ただし株式投資も長期投資であれば、短期的な株価の上下の影響は受けません。継続して保有すれば配当金も期待できます。企業独自の優待を目当てに購入する人も多いです。優待は商品や優待券のほか、特定のサービスが無料・もしくは優待価格で受けられるものなどさまざまです。
iDeCoやNISAを始めたいときは?
税制優遇があるiDeCoやNISAに興味がある人も多いと思います。iDeCoは国民年金基金連合会が実施主体となっており、掛金が全額所得控除されることや、運用益が非課税になることなどが特徴です。NISAは所得控除こそないものの、運用益が非課税になる点は同じです。iDeCoは原則60歳までは引き出しができませんし、NISAの一種である「つみたてNISA」では購入できる商品が所定の投資信託に限られています。税制優遇がある分、このような制限もあるので、始める前に制度を正確に理解することが求められます。
NISAなら「年間の非課税枠に上限がある」、「通常のNISAとつみたてNISAがあり、併用はできない」などの決まりがあります。決して難しい内容ではありませんが、投資未経験者では制度を理解するための時間が要るでしょう。
通常の投資のほうが自由に行えます。証券口座の開設は思い立ったらすぐ行えますし、もし証券会社を選び間違っても、より適した会社を選び直せばいいので、もっと気軽に行えます。
確定申告は必要?投資未経験者の疑問
既述のとおり、「特定口座・源泉徴収あり」で口座を開設すれば確定申告は原則不要です。ただし、複数の証券会社で口座を開設していて各口座の損益を通算したい場合、または「譲渡損失の繰越控除」を利用する場合は確定申告が必要になります。
損益の通算とは、運用益と運用損の双方がある場合に「利益から損を差し引くこと」です。特定口座内であれば損益通算を自動で行ってくれるのですが、複数の証券会社で取引をしているような場合は、確定申告で損益通算を行います。
【損益通算の例】
事例:A証券会社で100万円利益が出ているが、B証券会社では100万円の損がある(両社とも特定口座)
この場合、両社とも特定口座なので納税義務は確定申告をせずとも果たしています。損益通算を行えばA証券会社の利益からB証券会社の損を引いて利益をゼロにすることが可能で、確定申告後、すでに納税した税金の還付を受けることができます。
「譲渡損失の繰越控除」を利用する場合は確定申告が必要
さらに、運用による損失が大きい場合は、損失を来年以降に繰り越すことも可能です。それを「譲渡損失の繰越控除」といい、やはり確定申告が必要です。例えば2018年に300万円の損が生じたとき、マイナス分を来年以降に持ち越すことができます。2019年の運用利益が500万円だとしたら、2018年から繰り越した300万円の損失を差し引いて利益を200万円(500-300=200)にすることが可能です。ただし、繰越せるのは3年間となります。
投資未経験者がいきなり「損益通算」や「譲渡損失の繰越控除」を利用する例は少ないと思いますが、将来的に複数の証券会社を利用することや、運用額が大きくなることもあるでしょう。そのときのために知っておいて損はありません。
投資の注意点
最後に、投資を始める前の心構えをおさらいしておきましょう。投資額は大きい方が資産を増やせる可能性は高くなりますが、リスクを考えると投資額を抑えることも重要です。例え預貯金があっても、それが近々に必要な資金だったとしたら投資に回すことは避けたほうが無難です。資金が必要な時に元本割れしていると、必要な資金額に足りなくなってしまうかもしれません。当面支出の予定がない余裕資金で運用する姿勢を忘れないようにしましょう。
元本割れの恐怖を克服しよう
元本割れを必要以上に恐れることはやめましょう。多くの金融商品は価格の上下を繰り返すので、一時的に元本割れすることは必須と考えてください。余裕資金なら一時的に下がっても保有し続け、回復を待つことができます。つまり、余裕資金で始めることがそのままリスク回避になるのです。
ただし、保有している企業業績があまりに悪い場合や、投資先の国の経済が壊滅的であるようなときは下落し続けることもあります。悪材料が多いときは思い切って損切りすることも必要です。
長期投資なら、株価や投資信託の評価額を毎日チェックする必要はないとされていますが、損切りすべきタイミングを逃すと大きく損をしかねません。中には、下がりすぎてしまい売るに売れない状態に陥るケースもあります。そんな事態を防ぐためにも、価格と銘柄に関連するニュースは定期的にチェックしておきたいところです。
投資を活用して資産形成をはかろう
投資について、「勉強した後でないと痛い目にあう」、「一般の人は手を出してはいけない」そんなイメージを持つ人も少なくありません。しかし少額から慎重に行えば、そう怖いものではなく、むしろ将来のためになる可能性が高いです。始め方は簡単で、証券会社を選び口座を開設すればだれでも始めることができます。万が一投資が向いていないと思った場合も、iDeCoやジュニアNISAなど引出制限のある特別な取引でなければ引き上げが可能です。資産を増やすための第一歩を踏み出してみませんか?