IRRとは、投資における利益率を、利益が得られるタイミングを考えに入れて表すものです。利益が早期に得られるものほど、IRRは高くなります。IRRを計算する際には、将来に得られるお金の価値を現在の価値に置きなおすため、投資で得られる利益についてより正しく評価でき、投資の利益率を示す重要な指標となっています。
この記事では、IRRの定義と計算式、利回りとの違いについてみていきましょう。
IRRの定義とは?
IRRとは何なのでしょうか? 最初に、IRRの定義をみてみましょう。
IRRとは将来得られるお金の現在の価値と投資額が等しくなる利益率のこと。
IRRは「Internal Rate of Return」の略称で、日本語では「内部利益率」と呼ばれます。複数の投資案件を比較・検討するために用いられる指標で、IRRが高いほど「利益率が高く優秀な投資案件」と考えることができます。
IRRの一般的な定義は、
「投資に対する将来のキャッシュフローの現在価値と、投資額の現在価値とがちょうど等しくなる内部利益率」
となります。
ただし、この定義だけでは何のことだかわからない人も多いでしょう。そこで、IRRとはどのようなものなのかを、以下で段階を追いながら噛み砕いてみていきましょう。
1. 投資における「利益率」の計算式
IRRを理解するための第1段階として「利益率」とはどのようなものかをみてみましょう。利益率は、もっとも単純なものとして「投資の利益を投資額で割ったもの」、計算式で書けば、
となります。
例えば、100万円を投資して、5年後に5万円の利益を出したとします。その場合に利益率は、
で計算され、「5%」であることになります。
通常、利益率は「1年ごと」に計算します。そこで、上の投資案件の年ごとのキャッシュフロー(収支)が次のようなものであったとします。
投資時 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 |
---|---|---|---|---|---|
-100 | 1 | 1 | 1 | 1 | 101 |
この表は、投資時に100万円を投資したことを符号「マイナス(-)」で表し、その後に得られたお金は「プラス(+)」で表しています。1年後~4年後までは毎年1万円の利益があり、5年後に1万円の利益とともに元本を回収したことを示してします。
毎年1万円の利益があったことになりますので、この場合の毎年の利益率は、
で計算され、「1%」であることになります。
この場合の利益率は、「利回り」と同じになります。上の投資案件において、5年間での利回りは5%、年間利回りは1%であるといえます。
2. 「現在価値」の計算式
IRRの定義のなかに単語「現在価値」がでてきます。この現在価値の意味について次をみてみましょう。
現在価値とは将来に得られるお金を現在の価値に換算したもの
一般にお金は、銀行に預金したり投資したりすれば時間とともに増えていきます。したがって、現在100万円あったとすれば、それを年間利益率1%の投資にまわすことにより、1年後に101万円にすることができます。
それに対して、1年後に100万円が得られるとします。現在の100万円と1年後の100万円では、お金の額面としては一緒です。しかし「投資によってお金を増やすことができる」ことを考えに入れれば、現在の100万円は、年率1%の投資を行うことにより1年後に101万円にできるわけですから、1年後の100万円より価値があることになります。
年率1%の投資を行うとした場合、現在いくらのお金があれば1年後に100万円になるかを求めてみましょう。年率1%ですから、お金は1年間で101%(= 100%+1% = 1+0.01)の割合で増えることになります。したがって、1年後に100万円になるお金の金額を求めるためには、100万円を、お金が1年で増える割合101%で割ればいいことになり、計算式でいえば、
となります。これを計算すると「99万99円」となります。
年率1%の投資をする場合、この99万99円が、1年後に得られる100万円の現在における価値、「現在価値」です。
それでは、2年後に100万円が得られる場合の現在価値はいくらになるでしょうか?年率1%であったとすると、お金は最初の1年で101%(= 1+0.01)増え、次の1年でさらにその101%増えることになりますので、2年間でお金が増える割合は、
(1+0.01)×(1+0.01)=(1+0.01)2
で計算できることになります。したがって、2年後に100万円になるためには、100万円を上の割合で割ればいいので、
となります。これを計算すると「90万296円」、これが2年後に得られる100万円の現在価値です。お金の現在価値は、そのお金が得られる時期が後になればなるほど、実際の金額より少なくなることになります。
3. 実際にIRRを計算してみよう
ここまでで「利益率」と「現在価値」についてみてきましたが、これでIRRを計算して求める準備が整いました。IRRとは「投資において得られるお金の現在価値が、投資額と同じになるための利益率」のことでした。いくつかのケースについて、実際にIRRを求めてみましょう。
ケース1 100万円を投資して1年後に3万円が得られる場合のIRR
100万円を投資して1年後に3万円の利益が得られる場合、「利回り」は3%です。IRRがどうなるのかをみてみましょう。
1年後に手にするお金は、元本と利益を合わせて103万円です。この103万円の現在価値は、
で表されます。ただし、ここで「r」は、これから求めようとする利益率、IRRです。
この「1年後に得られる103万円の現在価値が投資額の100万円」と同じになるというわけですので、次の計算式が立てられることになります。
ここから式を展開すれば、
(1+r)100万円=103万円
100万円+100r万円=103万円
100r万円=3万円
と、IRRは「3%」であることがわかりました。この場合、IRRと利回りは一致します。
ケース2 毎年同額ではないお金が得られる場合のIRR
次に、もう少し複雑な場合についてIRRを求めてみましょう。上で、5年間で1万円ずつ利益が得られる投資案件の例を見ました。
・投資案件A
投資時 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 |
---|---|---|---|---|---|
-100 | 1 | 1 | 1 | 1 | 101 |
この例を「投資案件A」とし、これと比較するために「投資案件B」として次のような例を考え、両者のIRRを求めてみましょう。
・投資案件B
投資時 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 |
---|---|---|---|---|---|
-100 | 3 | 2 | 0 | 0 | 100 |
この投資案件Bは、100万円を投資して、1年後に3万円、2年後に2万円の利益が得られたものの、その後は利益を得ることができず、5年後に元本の100万円を引き上げたことを意味します。
投資案件Aと投資案件Bは、どちらも「5年間で5万円の利益」が得られていますので、5年間を通した場合の利益率はどちらも「5%」となります。IRRはどうなるでしょうか?
〇投資案件AのIRR
IRRは、各年で得られた利益の現在価値を足し合わせたものが、投資金額100万円と同じであるとしたときの利益率として求められます。計算式は、
となります。この計算式からIRRであるrを筆算で求めるのは困難ですが、Excelの関数を使用することにより、IRRを表から簡単に計算することができます。この場合にIRRは「1.000%」となり、年間の利回りと一致します。
〇投資案件BのIRR
投資案件BのIRRは、上と同様にして、
で求めることができます。これをExcelで計算すると、IRRは「1.016%」となります。
すなわち、お金の現在価値は早く得られたもののほうが高くなるため、投資案件Aと比較して早期に利益を得られた投資案件Bのほうが、たとえ5年間を通じた全体の利益率は同じであっても、IRRは高くなるというわけです。
4. IRRの一般的な計算式
ここまでで、いくつかのケースについてIRRを実際に計算してみましたが、最後にIRRの一般的な計算式をみてみましょう。
・C0 …初期キャッシュフロー(投資額が100万円なら-100万円)
・C0~Cn …n年目のキャッシュフロー(利益)
・r …IRR
とした場合、IRRを計算するための一般式は、次のようになります。
この式は、右辺を左辺に移項して次のように書かれることもあります。
まとめ
IRRは以上でみてきた通り、得られる利益が年ごとに異なる場合にも正しく利益率を示すことが可能となるため、不動産投資などの投資判断に使用されることが多い指標です。ただし、投資の初心者がIRRまでを考えて投資をするのは、ややハードルが高いといえるでしょう。投資を始めてすぐのうちは、年間の予想利回りが比較的はっきりしている投資信託や太陽光発電ファンドなどを試してみるのが良いといえるかもしれません。