少額でも購入でき、運用の手間が少ないとされる投資信託は、投資初心者でも始めやすい投資といえるでしょう。とはいえ、「気軽に始められる=リスクがない」というわけではありません。投資初心者に向いている投資信託だからこそ、リスクや仕組みを知ってから始めたいものです。
投資信託の現状は?
株価や為替についてはニュースでも毎日報じられていますし、不動産の価格も地価公示価格発表の時期には各メディアで地価の上昇率や変動の激しい地区などが大きな話題になります。それらと比べると投資信託の価格や人気銘柄は、なかなか耳にする機会はないかもしれません。しかし公募投資信託の純資産総額(2018年9月末)は116兆2,852億円(6,128本)にも上ります。
また、2018年1月にスタートしたつみたてNISAの口座数は2018年3月末ですでに51万口座です。つみたてNISAで購入できるのは所定の条件を満たした投資信託だけですが、通常タイプのNISA(少額投資非課税制度)と同じく非課税枠があります。二つを比較したとき、つみたてNISAの特徴は目的が長期的な投資である点となります。
長期的な視野の投資が目的なので、つみたて型の投資信託が対象となっており、年間40万円までの投資枠の範囲内ならば分配金も売却時も課税されません。また、非課税期間が20年と通常のNISAよりかなり長くなっています。従来の投資は資金力ある高齢世帯がメインの世代でした。しかし、つみたてNISAは長期的な視野、かつ、初期資金が少なくても資産形成ができるツールとして現役世代からも注目されているようです。
投資信託の仕組み
投資信託は、お金を出す人(投資家)と運用する者(運用会社)が別々に存在します。投資家は収益を期待して運用会社に資金を託し、運用会社は収益を上げ利益を投資家に還元する代わりに一定の手数料を受け取っていくのが基本的な仕組みです。
運用を円滑に行うために、投資信託にかかわっている機関をそれぞれご紹介します。
お金を投資する人。少額でも始められますが、元本保証ではありません。
投資家から集めた資金、もしくは投資信託そのものを指す。集めた資金は信託財産ともいいます。
証券会社・銀行・郵便局など、投資信託を販売している窓口のこと。購入・解約手続き、分配金の受取りなどは販売会社を通じて行います。
それと同じように、銀行も販売のみ請け負っています。
資産運用の専門家です。信託財産の投資先や投資手法などを決定し、信託銀行等に実行を指図します。運用会社は投資信託の法律上、「委託者」と呼ばれます。
運用会社の指図に従って運用を実行。信託財産の保管・管理、計算の事務も請け負います。運用を指図する会社と、運用実行・管理する人を分けることで信託財産の独立性を守ります。信託銀行は投資信託の法律上、「受託者」と呼ばれます。
運用会社に任せた方がコストダウンになるのでは?
その財産を守るために、運用会社とも販売会社とも別に財産を管理する存在をあえて設けているのです。
万が一販売会社が倒産するようなことがあっても、第三者的立場の信託銀行がしっかり財産を守ってくれていれば安心です。
投資信託が初心者に向いている理由
投資信託が投資初心者におすすめの理由を3つご紹介します。
プロが運用してくれる
「投資信託の仕組み」でも触れましたが、投資信託の運用指図をする「運用会社」は運用のプロです。投資家から集めた資金を運用する際、様々な投資手法や投資対象の中から適切な投資先を選んでくれます。個人では投資しにくい外国株や外国債券など、広い範囲から投資先を選別できるのは専門家ならではの強みです。
分散投資ができる
分散投資がしやすいのも投資信託の利点です。
分散投資とは、投資銘柄や投資先を分散させることで価格下落時のリスクを抑えることをいいます。例えば株式投資において、輸出企業と輸入企業双方の株を購入することで為替リスクを抑えたり、投資先を国内だけでなく海外にすることで国独自のカントリーリスクを分散させたりできます。
投資信託では豊富な資金で複数の銘柄や資産に投資します。さらに、様々な分野に投資をするバランス型もあります。個人で分散投資をしようとするとまとまった資金が必要ですが、バランス型投資信託では自分のお財布事情に見合った範囲の投資で、間接的に分散投資することができます。
このように投資対象を複数に分けるのが「資産分散」です。分散投資にはもうひとつ、タイミングを分けて投資を行う「時間分散」があります。時間分散は、定期的に一定金額ずつ買い付ける投資方法のことです。
積立型のように毎月一定額を投資すると、平均取得単価を低くする効果が期待できるのです。
もしも積立額が毎月1万円なら、単価は1万円では……?
基準価格は変動するのでしょうか?
なお、基準価格は新聞や販売会社のホームページなどで見ることができます。
無理ない金額で投資できる
投資信託は少額からの投資もしやすいです。例えば株の価格は「単元×株価」で決定しますが、1銘柄の金額が数十万円もすることは多いです。企業によっては百万円単位になることもあります。今ではミニ株やワン株など、単元よりも小さい単位の株も購入できるようになったので、以前よりも少額で株式投資できるようになったとはいえるでしょう。
しかし、単位未満株では議決権が原則ありませんし、配当や株主優待の権利も保有株数に応じたものになってしまいます。また、不動産投資も不動産を購入して行うので、多額の初期資金が必要になります。自己資金を減らさず、全額借入をしたとしても、借入リスクを負う以上、ハードルが高いことには変わりません。
特に初心者の場合、いきなり大きな金額を投資するのには勇気が要るので、自分に合った金額から始められるのは大きなメリットでしょう。
投資信託は少額をコツコツと積立てる手法も向いています。投資信託は積立に対応している商品が多く、100円から積立できるものもあります。また、通常は一度申し込めば毎月自動で買付が行われるため、毎月の積立ても手間がかかりません。
投資信託のリスク
投資信託は専門家が運用してくれ、豊富な資金で分散投資を行うこともできます。しかし、プロといえども失敗しないとは言い切れず、元本が保証されているわけでもありません。運用成績によっては損をすることもあるので、実績をきちんと確認しておくことが必要です。
また、運用実績とは別に、複数の手数料がかかるので、その分も含めて収益が見込めるかを判断しなければなりません。
投資信託の手数料を確認しよう
販売会社に支払う購入時手数料のことで、金額は販売会社が決定します。購入時手数料が無料の投資信託はノーロード・ファンドと呼ばれます。
・ 信託報酬
投資信託を運用・管理していくための費用です。「販売会社」「運用会社」「信託銀行」がそれぞれ所定の報酬を受け取ります。
・ 監査報酬
投資信託の経理が適切に行われているかどうか、監査法人や公認会計士が監査を行う場合の報酬です。
・ 売買委託手数料
運用会社は定期的に銘柄入れ替えを行い、その際は一般の取引と同じように取引手数料がかかります。この手数料が売買委託手数料です。銘柄組み入れの頻度や保有銘柄の数によって売買委託手数料は変わります。
換金時には「信託財産留保金」がかかることがあります。換金時の手数料をファンド内に留保すると考えるといいでしょう。これらの手数料は投資信託によって異なりますが、事前に確認可能です。
手数料のうち、保有中は継続してかかる「運用時の手数料」には特に注意したいところです。逆に、購入時の手数料は最初だけの手数料なので、ノーロード・ファンドにこだわりすぎないようにしましょう。
普通分配金と特別分配金
投資信託では運用成績がいいと収益を分配金として投資家に還元するものがあります。通常、分配金は再投資に回すこともできますし、現金で受け取ることもできます。おこづかいや臨時収入の感覚で分配金を受け取る人も多いようです。しかし、分配金は必ずしも収益から分配されているとは限らない点を知っておきましょう。
分配金には普通分配金と特別分配金があり、性質や課税の有無が異なります。両者の線引きは、決算日の個別元本によります。個別元本とは個々の購入価格のことで、購入時の基準価格により変わります。
・ 普通分配金収益
個別元本が上回る部分からの分配金。収益からの分配金なので課税対象となります。
・ 特別分配金
個別元本を下回る部分からの分配金。収益ではなく投資した元本の一部払い戻しとされるため非課税となります。
分配金の本来的な形は収益からの分配(普通分配金)でしょう。配当金を好む投資家も多く、そのニーズを満たすために元本を削ってまで分配する特別分配金を敢えて出す投資信託もあります。特別分配金が多い投資信託は収益が出ていない投資信託といえます。「分配金の回数や金額が多いから運用成績もいいのだろう」と安易に考えないようにしたいです。
実はこんなに!投資信託の種類と分類
販売会社によって投資信託の取扱本数は違いますが、多くの商品の中から選んでいくのが通常です。あまりに数が多いと何を選んでいいのか迷ってしまいますので、まずはどんな種類があるのか確認しましょう。
運用方法による違い
投資信託にはインデックス型とアクティブ型があります。インデックス型は、日経平均やTOPIX、ダウ・ジョーンズ工業株価平均といった市場指数に連動し、それに準ずる成果を目指すものです。平均的な値動きに応じた収益が得られやすく、信託報酬などのコストが割安な傾向にあります。ただし、平均的な値動き以上の成果を望む人には不向きです。
アクティブ型は、独自の指針に従って銘柄を選定し、市場指数以上の成果を目指すタイプの投資信託です。独自の指針が上手くいけば大きな利益が得られる反面、リスクもあります。また、インデックス型と比較してコストも高めの傾向があります。ハイリスクハイリターンともいえる手法ですが、投資信託なら少額投資ができるので、そう大きなリスクにはならないでしょう。ハイリスクな投資に興味がある投資初心者は、アクティブ型の投資信託から始めるといいかもしれません。
対象地域による違い
対象地域は国内か国外かに大別されます。日本国内なら、投資先が身近で、情報収集・状況把握がしやすいでしょう。国外の場合、さらに先進国と新興国で分かれています。先進国とはアメリカやヨーロッパのことです。経済が熟しているので大きな成長は難しいかもしれませんが、安定した収益を望めます。
新興国は、成長の余地があるので大きなリターンが期待できる一方、政情不安や為替変動リスクといったカントリーリスクも大きいです。
投資対象資産による違い
投資対象も株式や債券、不動産投資など様々なものがあります。企業の業績によって価格が変化する株式は、売買で収益を得ることができます。国や企業などが発行する債券は、満期まで保有すれば当初に約束された利息を得ることができる安定性の高い資産です。そして、不動産(J-REIT)は賃貸収入で利益を上げます。
その他、商品先物市場で取引されている金や原油、穀物などに投資する「コモディティ投資」もあります。コモディテイ投資は株式や債券といった金融市場とは連動性が低く、リスク分散の手法として注目されています。
投資信託、たとえばこんな商品がある
ここまでは投資信託の種類を見てきました。投資対象は特定の地域と投資対象を組み合わせたり、複数の投資対象資産をチョイスしたり、様々な組み合わせがあります。例えば、「インデックス型で、国内と先進国の株式を投資対象にする」「先進国・新興国の不動産を投資対象とする」などです。さらに、商品タイプをいくつかご紹介します。
・ 不動産投資信託J-REIT
信託財産で不動産を取得し賃貸収入や売買益等を得ます。元々はアメリカで誕生したもので、J-REITは日本版です。
・ 上場株式投資信託(ETF)
特定の指数(日経平均株価やTOPIX等)の動きに連動する運用成果を目指すもので、内容としてはインデックス型投資信託と似ています。証券取引所に上場している「上場型投資信託」である点が大きな特徴です。
・ テーマ型ファンド
トレンドに着目し、関連したテーマの銘柄に集中して投資する投資信託です。例えば自動車やロボット関連株、エネルギー、天然資源……などのテーマがあります。
・ ご当地ファンド
特定の地域を決め、その地域と関係が深い地域や産業、企業に投資します。ただし、投資対象が少ない場合はそれ以外の投資先を組み入れる場合があります。
話題のつみたてNISAとは
「つみたてNISA」に年間の非課税枠があることや、非課税期間が長いことは既述の通りです。つみたてNISAは投資対象が投資信託に限られ、直接的な株式投資や不動産投資などは行えません。そして、つみたてNISAだからといってすべての投資信託が購入できるわけではありません。
つみたてNISAで対象となる投資信託は「手数料が低水準」「分配金の支払いが頻繁ではない」「投資対象が公募株式投資信託・上場株式投資信託(ETF)」などの決まりがあります。対象の投資信託の数は指定インデックス投資信託が141本、その他(上場株式投資信託・アクティブ運用投資信託等)の投資信託が20本(2018年9月28日付)となっています。
初心者の投資信託活用法
それと、自分の知らない所に投資するのは怖いです。
ありがとうございます。
投資初心者にとって、最初の銘柄選びが一番の山場になると思います。数多くの投資信託からどれを選んでいいのか迷ってしまいがちだからです。しかし、自分のリスク許容度、そして投資先への希望を明確にしておくことで、銘柄選びはぐっと楽になります。
証券会社や銀行など、投資信託を取り扱う会社のホームページでは条件をチェックすると希望を満たした投資信託だけ表示される検索ツールがあります。自分の希望さえ明確にしておけば、希望に見合った投資信託を探すのはさほど難しいことではないはずです。
最初の一歩は口座開設から
投資信託をやってみたいと思ったら、まずは購入を予定している証券会社や銀行のホームページをのぞいてみることをおすすめします。取り扱う投資信託は販売会社によって違うので、自分の好みに合った投資信託があるか確認してみましょう。口座開設前でも、先ほど触れた「検索ツール」が使えるサイトも多いです。
商品を確認したうえで購入してみたい投資信託があると分かったら、口座開設の手続きをするといいでしょう。
なお、投資手法や投資対象の条件だけでなく、運用成績も確認する必要があります。ほとんどの投資信託は、購入前でも販売会社のホームページで目論見書(投資信託説明書)が閲覧できます。
最初に適切な投資信託を選び、購入してしまえば保有後の手間は少ないです。月に1回程度は業績の確認をした方がいいですが、頻繁な買換えや入れ替えはしないのが普通です。銘柄変更や保有資産の入れ替えは運用会社がやってくれるからです。
まとめ 初心者は投資信託の特色を知ってから投資を始めよう
投資初心者にとって、専門家が運用してくれる投資信託は大きな魅力でしょう。しかし、自身で運用しないからこそ、どんな方針の投資信託を購入するかを慎重に決めたいです。手数料やリスクについてもしっかり確認すれば、安心して保有し続けることができるでしょう。最初の一歩を上手に踏み出し、らくちん投信ライフを送りたいですね。