マイホームを手に入れることは、多くの人が思い描く“人生の夢”です。一方で「賃貸の方が身軽でいい」という声もあります。マイホームか賃貸かの選択は、いわば究極のテーマです。マイホームを購入すべきか、それとも生涯賃貸で過ごすべきかについて、あらゆる角度からみてみましょう。
単純比較では答えが出ない永遠のテーマ
マイホームVS賃貸のどちらが得なのかは、単純な比較で答えを出せるほど簡単なものではありません。住まいに対する考え方もそれぞれ違いますし、家族構成や置かれている状況、経済的事情も千差万別です。
高度経済成長時代なら多少無理をしてマイホームを取得しても、賃金が毎年のようにアップしていたため、年を経るごとにローンの支払いも苦にならなくなりました。そしてローンを払い終える頃には地価の高騰により、老後の生活を支える十分な資産価値となっていたものです。
しかし、長い間根付いていた土地神話は崩れ、賃金も物価もどんどん上昇していたインフレから賃金や物価の上昇が停滞するデフレに移り変わり、そこからなかなか脱却できなくなった今、将来への不安から思い切った決断ができなくなっているのが現状です。
マイホーム取得にはこれだけの費用がかかる
では、マイホームを取得する場合の費用についてみていきましょう。マイホームを取得する場合、物件価格以外にも、購入手続きにかかる諸費用や、購入後にかかってくる固定費など様々な資金が必要となります。
まず頭金です。ゼロでもローンを組むことはできますが、月々の返済額を考えると物件価格の2割程度は用意しておくことが無難です。
さらに不動産取得税、固定資産税・都市計画税、登記費用などの初期費用があります。また、ローン契約にも、印紙税、ローン借入費用の事務手数料、ローン保証料、団体信用生命保険特約料、火災保険料などが必要になります。
また、マンションを購入する場合には修繕積立基金、一戸建て購入の場合は、水道負担金が必要となるケースもあります。その他、引越費用や、新居に合わせた家具や家電を買い替えるための費用も、用意しておかなければなりません。
一般的な目安としては、新築マンションの場合は物件価格の3%~5%、中古マンション・新築・中古の一戸建ては物件価格の6%~13%のようです。
マイホームVS賃貸の支払総額比較
では、賃貸の場合の費用はどうでしょうか。賃貸の場合は、2年ごとに更新料がかかり、家賃の値上げもあるとはいえ、余分な費用が発生することはありません。そこで、物件価格3,500万円(頭金ゼロ)の新築マンションを金利1.47%(元利均等)の35年ローンで返済した場合と、ローン月額と同額の賃貸マンションに住み続けた場合の50年間のコストを比較してみました。
■ 分譲マンションの支払総額:6,664万円
【内訳】
35年ローンの返済額合計:4,494万円(月々の返済額10.7万円×12ヵ月×35年)
+購入時諸費用:200万円
+管理費・修繕費・税金:1,750万円(35万円×50年)
+リフォーム費用:500万円
-住宅ローン控除:280万円(10年間)
=6,664万円
■ 賃貸(引越5回)の支払総額:6,375万円
【内訳】
家賃:6,000万円(10万円×12ヵ月×50年)
+初期費用(仲介手数料、礼金):100万円(20万円×5回)
+更新料:200万円(10万円×2年×20回)
+引越費用:75万円(15万円×5回)
=6,375万円
マイホーム購入と賃貸の50年間の支払総額では、それほど差がありません。でも差がついてくるのは、この後、ローンが終了してからです。
ローン終了後に開く差
分譲マンションであれ、一戸建てであれ、マイホームを購入し、ローンが払い終われば、その分の費用負担はなくなります。しかし、賃貸の場合は、その後も家賃の支払が続きます。そして一番大きな差は、購入したマイホームが、資産として手元に残っていることです。
もちろん資産価値の程度は、立地条件や周辺環境、地価の事情によって大きく変わりますが、いずれにしても手元に残ります。賃貸では、手元に何も残らず、その後も家賃を払い続けなければなりませんから、支払総額はどんどん増えていくことになります。ましてや、高齢となり働くことができなくなった場合は、家賃の負担が重くのしかかってきます。
そうなると、やはりマイホームを購入する方が得なような気がしますが、購入する時期、つまり年齢によっても違ってくるといえるでしょう。
もし、50年後に息を引き取るようなことがあれば、支払総額はそれほど変わりません。もっとも、残された家族に資産を残すことができるという点では、マイホーム購入の方に軍配があがるのはないでしょうか。
マイホームと賃貸のメリット・デメリット
では、マイホームと賃貸の、それぞれのメリット・デメリットについてみていきましょう。
賃貸の最大のメリットは、ライフスタイルの変化に合わせて、住み替えが自由にできることです。
デメリットは、一生仮住まいというところでしょうか。
マイホームのメリットは、終の棲家を確保するという安心感と資産形成です。
デメリットは、勤務先の倒産やリストラ、あるいは業績不振で給料が大幅ダウンとなるなど、ローンを支払うことが難しくなる可能性があることです。また、ご近所トラブルや、高層マンション建設などにより日照量が激減するなど、住環境に問題が起きた場合でも簡単に引っ越しができないというデメリットも考えられます。
収入が減っても、賃貸なら生活レベルに合わせた物件に移り住むこともできますが、マイホームとなるとそうはいきません。最悪、せっかく手に入れた夢のマイホームを手放すことになることだってあるかもしれません。マイホーム購入にも生涯賃貸にも、それぞれメリット・デメリットがあり、簡単にどちらが得なのかを判断することはできません。
8割近くがマイホーム取得を希望
それでも、やはりマイホームを取得することは、多くの方にとって夢のようです。国土交通省の「土地問題に関する国民の意識調査」では、79.3%の人が「土地・建物については、両方とも所有したい」としています。
マイホームを所有している人の年齢をみていくと、20歳代では20%以下ですが、30歳代後半には40%台と倍増し、40歳代前半では50%台、70歳代では80%以上となっています。
もちろんこの中には、相続によってマイホーム所有者となっているケースもありますが、30~40歳代に自分自身でマイホームを取得している人が多いようです。
マイホーム購入は資産形成の確実な手段
では、なぜマイホーム熱は一向に下がらないのでしょうか。それは、将来の資産形成として最も確実な方法だからではないでしょうか。
資産形成には、株や金融商品などいろいろな方法があります。例えば株であれば、資産形成のつもりで始めたのに経済情勢によってはゼロになってしまうリスクもあります。しかしマイホームなら、まったくの無価値になってしまうことはありません。仮に地価が下がったとしても、長い間生活の拠点として住み続け、それはその先も保障されています。
もちろん経年劣化によって老朽化もしますし、リフォームが必要になることもありますが、いざというときには売ることもできますし、賃貸に回して家賃収入を得ることもできるのです。
「安心」を選ぶか「自由」を選ぶか
マイホームを購入するべきか、生涯、賃貸で過ごすべきかについては、様々な意見があり、様々な分析データがあります。収入や資産状況、購入する物件の立地や価格など、条件によって違いますが、おおむね支払総額においては、どちらもあまり差がないというのが一般的な見解のようです。
そして、一番の違いが資産として残るか否かです。人生100年時代といわれますから、できることなら若いうちから資産形成に取り組むことが老後の安心を勝ち取る近道といえるでしょう。
例えば、マイホームを35年ローンで購入するにしても、若ければ若いほど月々の支払額を少なくすることができますし、繰上げ返済によってローン期間を短縮することも可能です。
また、マイホーム購入そのものは先の話としても、若いうちから準備をしておくことが大切です。頭金を多くすることで借入額を少なくすることができ、月々の支払はもちろん、ローン期間の短縮や支払総額を減らすこともできます。
資産があれば、老後の生活はある程度は安泰といえます。たとえ介護が必要になっても、マイホームを売却して、有料老人ホームへ入居することも選択肢の一つとなります。一方、生涯を賃貸で過ごす場合は、ライフスタイルに合わせてフレキシブルに住み替えができますが、老後の安心を確保するためには資産を別な形で用意しておく必要があるのではないでしょうか。
資産形成として、株や投資信託など様々なものがありますが、その中でもいま人気を集めているのが太陽光発電設備への投資です。最近では住宅の屋根に設置されているのをよく見かけるようになりました。太陽光発電設備への投資は住宅を取得するのと同じく大きな費用が必要と思われていますが、1万円から始めることができるクラウドファンディングもあります。資産形成の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。