若手サラリーマンに「老後のことを考えているかどうか」を尋ねると、ほとんどの人が「まだ早い」という回答をするでしょう。
しかし、本当にそうでしょうか?
老後破綻や老後破産といった悲惨な状況も、ここにきてぐっと現実味を帯びてきています。そうならないためには、どうすればいいのでしょうか。
趣味を充実させ、人生を豊かにするにはお金が必要
皆さんは、リタイアした後のライフスタイルを、どのように思い描いているでしょうか。世界中を旅行したい、趣味の世界にどっぷりと浸りたい、人の役に立つことを始めたい・・・など、夢はどんどん膨らんでいきます。
リタイアした後ですから、旅行や趣味に費やす時間はたっぷりとあります。これまで、やりたいと思っていたけどできなかったことにチャレンジするには、リタイア後は絶好のチャンスといえるでしょう。
しかし思い描いていた夢を叶えるためには、ある程度のお金が必要となります。「退職金と、それなりの預貯金もあるから大丈夫」と、安心しているかもしれませんが、リタイア後の生活を支える基盤となるのが、公的年金と預貯金です。
ところが、頼みの綱となるべき公的年金に、暗雲が立ち込めているのです。生命保険文化センターが行った意識調査によると、自分の老後生活に「不安感あり」と答えた人の割合は85.7%で、およそ9割近くの人が老後の生活に対して不安を抱えているそうです。
しかも、その理由が「公的年金だけでは不十分」が80.9%で断然トップ、次いで「日常生活に支障が出る」(57.2%)、「自助努力による準備が不足する」(38.1%)、「退職金や企業年金だけでは不十分」(36.7%)が続いています。
少子高齢化の加速で“アリ”的な生き方に赤信号
かつては、イソップ童話“アリとキリギリス”に出てくるアリのような生き方が模範とされてきました。夏の間はせっせと働いて食料を貯え、食料がなくなる冬になっても、貯えた食料で悠々自適な生活を送ることができるというものです。若いうちにせっせと働き、リタイア後は年金で悠々自適のセカンドライフ・・・まさにアリのような生き方ですが、少子高齢化によって、アリのような生き方にも多くの不安要素が出てきました。
若い人が抱いている年金への不安は、「果たして自分たちは年金を受け取ることができるのだろうか」ということです。現在、国民年金や厚生年金の公的年金加入者は6,731万人で、年金受給者は4,000万人に達しています。つまり、国民の3人に1人が年金受給者です。年金は賦課方式といって、20歳から60歳までの現役世代が納めた保険料が、65歳以上の年金受給者に支払われています。
現役2人で高齢者1人を支える年金制度
保険料を納める若年層が増え、年金受給者の高齢者が減少していくのであれば、なんの問題もありません。ところが日本では少子高齢化が加速し、0歳から14歳の年少人口は、1982年以降減少が続いています。15歳から64歳の生産年齢人口は、1995年までは増加傾向にあったものの、それ以降は減少傾向をたどっています。
一方で、増え続けているのが65歳以上の年金受給者です。総人口に占める高齢者の割合は、1970年には約7%だったものが、1990年は12%、2000年は17%、2060年には約60%に達すると推定されています。
つまり、年金保険料を払う層が減り、受給する層が増えるということで、現役世代2人で65歳以上の年金受給者1人を支えなければなりません。当然、保険料を払う人が減り、受給者が増えるわけですから、年金の減額、支給開始年齢の引き上げ、さらには保険料の値上げという可能性も生じてくるのではないでしょうか。
モデル世帯の年金受給額は夫婦で月22万1,507円
では、現在の年金受給者は、一体いくら支給されているのでしょうか。
夫が会社員で妻が専業主婦という、厚生労働省のモデル世帯でみると、夫婦で月22万1,507円です。これは40年間会社員として働き、賞与も含めた平均標準報酬を42万8,000円として計算したものです。決して悠々自適とはいえませんが、住宅ローンなどの大きな借財を抱えていなければ、夫婦2人が食べていくには、なんとかなりそうな額です。足りない分は預貯金やアルバイト、パートなどで補うことも可能です。しかし、サラリーマンではなく自営業者の場合は国民年金だけですから、老齢基礎年金額の65,008円しか受給することができません。国民年金だけで生活していくことが難しいのは明白です。
自分が年金受給世代となったときに一体いくらもらえるのかは、日本年金機構の「ねんきんネット」(http://www.nenkin.go.jp/n_net/index.html)で試算することができます。
ただし、年金額は、物価・賃金の変動に応じて改定される決まりとなっていますから、インフレになればその分が引き上げられますし、デフレになれば引き下げられます。あくまでも現在の水準での数字ですから、その通りの額が受け取れるわけではありません。
はっきりしているのは、少子高齢化が続く限り、今の支給額より下がることはあっても、上がることはなさそうだということです。
人生100年時代と世界2位の長寿国という現実
人生100年時代を裏付けるのが、世界2位の長寿国という現実です。厚生労働省の調査(2016年)では、平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳です。また、同じく厚生労働省の「2016年簡易生命表」によると、何年生きるかを表す「平均余命」は、60歳の男性が23.67年、女性が28.91年です。
つまり、ざっくりいうと、女性の4人に1人が95歳まで、男性の4人に1人が90歳まで生存するという、まさに世界に冠たる長寿国となり、「人生100年時代」が目前にきているといってもいいでしょう。
ついこの間までは、「人生80年時代」でした。“80年”とすれば、60歳でリタイアするとして年金でのセカンドライフはざっと20年です。ところが“100年”となれば、その倍の40年です。
これまでの定年後のモデルケースでは、60歳で退職した後に再雇用で65歳まで働き、その後は年金や預貯金で生活をしていくというパターンでした。人生100年時代となれば、それが成り立たなくなるという不安が生じてきます。
他人ごとではない老後破綻、老後破産
では、老後も快適に暮らしていくためには、いくらの資金が必要なのでしょうか。少し前までは2,000万円から3,000万円といわれてきましたが、なかには「とてもそれでは足りない。億単位が必要」という説もあります。億単位の老後資金となると、一般サラリーマンの預貯金と退職金では、とても届きそうもありません。
そこで、実際にどの程度の生活費が必要なのかをみていきましょう。
総務省の家計調査によると、2017年における2人以上世帯(平均年齢59.6歳)の消費支出は、1ヵ月平均283,027円となっています。やはり標準モデルケースの年金額である22万1,507円よりオーバーしています。でも、この程度であれば支出を見直すことで、なんとかなる範囲です。ただし、これには自己所有の持ち家やマンションがあり、ローンが終了していることが前提です。賃貸の場合は賃貸料が支出の大きなウェイトを占めることになりますし、定年後もローンに追われているようでは、その前提が崩れてしまいます。
さて、この約28万円の支出額を基本にすると、年間336万円、10年間で3,360万円、40年で1億3,440万円の生活費がかかることになります。年金支給額より生活費のオーバー分がおよそ6万円ですから、40年となると2,880万円が不足することになります。
つまり、今、盛んに言われている老後破綻や老後破産というのは、決して極端なケースではなく、誰にでも起こり得る現実ということです。しかもこれは、生活の基礎となる費用です。趣味やライフスタイルを楽しむための費用はこの金額に含まれてはいません。
まとめ
老後破綻、老後破産を防ぐためには、支出を減らすか、収入を増やすしかありません。膨らんでしまった支出を減らしていかなければ、夢に見た老後のセカンドライフは早々と破綻してしまうことにもなりかねません。
しかも公的年金は今後、減額となるかもしれませんし、日本人の平均寿命はどんどん延びています。また、増税や物価の高騰など、何が起きるか想像もつきません。そのためにも、できる限り老後に備えて資金を蓄えておくことが必要となります。
老後資金の準備はできる限り早く始めることにより、低リスクで確実に貯めていくことができるでしょう。一般的な方法としては、確定拠出年金、個人年金、積立タイプの生命保険、株や投資信託、土地活用などが挙げられます。
また、不動産投資に近いものとしては、太陽光発電設備への投資も、これからは有望とされています。とくに地方への不動産投資は、空き地を有効活用した太陽光発電設備への投資を考えてみるのも一つの選択肢といえそうです。
いずれにしても、迫りくる現実に目を背けることなく、一刻も早く老後に備えることが大切となります。
「知ってトクする年金の疑問71」(井戸美枝著/集英社)
「退職金は何もしないと消えていく」(野尻哲史著/講談社)